大学院ゼミ読書会【第三期】

第77回読書会 2022年7月10日(日)午後2時~午後5時 

■レポーター:髙瀬、田浦

参加者:菅原、板垣、松丸、小宮山

 『八月の光』の二回目は、ジェファソンに向かうリーナが道で2人の男とすれ違い、そのうちの一人アームステッドの馬車に拾われ、彼の家に泊まらせてもらう場面までを精読した。前半の場面ではフォークナーの文体に特徴的な「ずらし方」に注目が集まった。たとえば視線に関する描写は多くあるが、登場人物同士の視線は正面から交差することはない。一方で男たちの視線により、妊婦のリーナ―が結婚指輪をしていなといった情報はめざとく「抜き取られる」。また、固有名詞の登場の仕方にも「ずらし」が見られる。男たちの名前は何度もテクスト上に出てくるが、リーナ―の名は物語の冒頭で言及されたのみで、アームステッドの妻の名「マーサ」も、何の説明もなく突然登場するのである。また返し使用される“reckon”という動詞は南部特有の用法であり(トウェイン作品にも頻出する語彙である)、正面から視線で確認しない代わりに「見なす・考える」といった意味のreckonが多用されているのではないかという意見が共有された。

もうひとつ挙がった語彙表現は、リーナが乗った馬車のラバたちの耳の間に伸びる道について、“road curved”(曲がった)ではなく“roadcarved”(刻みつけられた)という語が使用されている点である。この語を使うことで、リーナがバーチという到着地点を見据えた「距離」を意識しているのではないかという解釈が発表者からなされた。登場人物に関しては、後半で登場するマーサと若くて人生経験が浅いリーナの描かれ方の比較、アームステッドの視点や思考から組み立てられるマーサ像についても議論された。その上で、現時点でどの人物に興味を持って読んでいるかなどの意見交換も行った。(報告者:小宮山真美子)

*読書会の後、9月に開催する夏合宿@軽井沢の打ち合わせを行った。

第76回読書会 2022年5月4日(水)午後2時~午後5時 

■レポーター:菅原、小宮山

参加者:髙瀬、板垣、田浦、松丸

 今回からフォークナーの長編小説『八月の光』を読み始めた。初回にあたる今回は、フォークナーの用いる手法や基本情報を確認しながら、Chapter 1の10分の1ほどをゆっくりと時間をかけて読んだ。

 読書会では、リーナが登場する冒頭に注目が集まった。冒頭の一文では、外側からLenaを見つめる語り手の視点が、次第にリーナの視点と交差し重なっていく。また、フォークナーはリーナにアラバマやミシシッピといった実際の地名を言わせた後で、ドーンズ・ミルという架空の場所を挿入している。これらの手法からは、読者を現実世界から架空のヨクナパトーファーの世界へと徐々に誘おうとするフォークナーの意図があるだろう。その巧みさに一同が思わず感心する一幕もあった。

 今回の担当範囲は、実際には一瞬で流れるはずの時間の中で、過去の様々な出来事が回想されていた。イタリック体で表記される所謂内的独白に類する部分には、本人の意識だけでなく他者の言葉も侵入・浮遊する。それらの中で、リーナの社会的地位が次第に明らかになっていくようであった。

 フォークナー独特の文体に慣れず、文章の時制とその意味などを確認することに多く時間を割いたが、初心に戻って丁寧な精読を実践した回となった。(報告者:松丸彩乃)

*新学期が始まり、各自、勤務校での授業内容を報告しあい、今後の学会発表の予定を確認しあった。