アメリカ文学史 <Ⅰ(前期)・Ⅱ(後期)>
■授業の概要
文学は、言葉によって社会の様相をテクストの中に再現する行為であり装置である。アメリカ合衆国の文化と社会の流れを、様々なテクストから読み解いていく。
15世紀ヨーロッパにとって、新大陸としてのアメリカ大陸が持つ意味を探ることから始め、17、18世紀の植民地時代の精神的背景、1776年の独立革命の与えた衝撃、19世紀アメリカ国家の空間的拡張が与えた精神的高揚等などを文学作品・政治文書・ジャーナルなどからたどる。その上で、20世紀アメリカをグローバルな視点から位置づけ、21世紀のアメリカの存在の意味と世界のあり方を検討したい。
また、文学史という概念そのものに対する批評理論も紹介する。ことに、歴史と記憶との問題については、最近の精神医学の問題提起などを批評書から汲み取り、ことに歴史言説の特質についての考察を提示するつもりである。
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■授業の計画
前期: 15世紀ヨーロッパにおける新大陸の意味
植民地時代のテクスト
独立革命とアメリカの理念
アメリカ文学の独立
アメリカ・ルネサンスの文学と精神
南北戦争と文学
「ヤング・アメリカ」と拡張主義
後期: 19世紀後半の文学と文化
自然主義文学と社会
世紀の変わり目の社会と文学
1920年代の文学と文化
第二次世界大戦の歴史の概念
ユダヤ系文学とユダヤ的想像力/創造力
黒人文化と文学
アメリカ的リアリズムの本質と21世紀社会
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■授業方法
講義が中心であるが、ビデオなどによって視聴覚的にアメリカ文化に触れていきたい。また、インターネットによる情報収集(ことに英語で)にも慣れてもらいたい。指定された批評書2冊のうち、1冊を購入して読み、レポートを提出のこと。初回の授業で2冊の本の概要については説明するので、興味のあるものを選ぶこと。
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■テキスト/参考文献
Peter B. High, An Outline of American Literature (Longman Eicho-sha)
『歴史とトラウマ:記憶と忘却のメカニズム』下河辺美知子(作品社)
『トラウマへの探求:証言の不可能性と可能性』キャシー・カルース(作品社)
参考書
『記憶を書き換える』イアン・ハッキング(早川書房)
『記憶のポリティックス松井 昇 他(南雲堂フェニックス)
演習 Ⅰ・ⅡI <通年>
■授業の概要
[黒人混血女性のラヴ・ストーリー]
アメリカ文学において、人種を語る言語と男女の愛を物語る言葉とはどのような関係にあるのだろうか。ゾラ・ニール・ハーストンは1920年代のハーレム・ルネッサンスと呼ばれる黒人文化隆盛期の女性作家である。長い間埋もれていたこの作家が注目されるようになったのは、アリス・ウォーカーが『カラー・パープル』を書くにあたって、ハーストンの小説『彼らの目は神を見ていた』を手本としたと述べたことからであった。
『彼らの目は神を見ていた』では、白人対黒人の差異ではなく、黒人内部での微妙な違いからくる差別が描かれる。黒人の中にある白人への憧れや願望が「幻の白いものさし」として機能し、黒人たちの心に劣等感や優越感が生まれ、そこに、愛情や憎しみに翻弄される黒人たちのドラマが繰り広げられていく。白人との混血ジェイニーは、白い肌の黒人として三人の夫と結婚し、夫たちとの関係を通して「自分だけの愛のものさし」を獲得しようとする。しかし、運命は彼女から夫を奪っていく。
ラブ・ストーリーとしてこの作品を読んだ上で、陪審員制度を含む南部社会の構造を通して社会学的な読み方も試みる。さらに、南部の民間伝承を収集し、黒人英語を大切にしてテクストを書いたハーストンの文化人類学者的な側面にも注目したい。
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■テキスト/参考文献
Zora Neale Hurston, Their Eyes Were Watching God (1937)
——, Dust Tracks on a Road: An Autobiography (1942)
バーバラ・ジョンソン『差異の世界』(紀伊国屋書店)
演習 Ⅰ・ⅡJ <通年>
■授業の概要
[J.D.サリンジャーと冷戦期アメリカ]
J.D.サリンジャーは『ライ麦畑の捕まえ手』(1951)一作によって1950年代以降若者たちの人気作家の一人という地位を築いてきた。確かに主人公ホールデンの声の中に規制概念への挑戦を重ねる読みは有効である。しかし、サリンジャーのテクストには、資本主義がもたらす幻惑と腐敗が込められ、一方では、青春に影を落とす「死」のにおいがつきまとっている。思春期の少年の目から見た大人の世界の糾弾の書とみなされてきた『ライ麦畑の捕まえ手』を、まず文学テクストとして重層的に読み解いてみたい。
サリンジャーが作品を発表した1950年60年代は、20世紀後半の全世界を支配した冷戦構造が始まった時期である。イデオロギー対立が米ソの間に緊張関係を作り出し、核兵器による人類全滅の脅威が世界を凍りつかせていた。共産主義の威嚇におびえつつ、一方では、宇宙開発に夢を託していた当時のアメリカのメンタリティーが『九つの物語』(1953)『フラニーとゾーイ』(1961)などの作品にどのように表れているのかを読み解く作業も行っていく。
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■テキスト/参考文献
J.D.Salinger, The Catcher in the Rye(1951)
—–, Nine Stories (1953) —–, Franny and Zooey (1961)
山下昇編『冷戦とアメリカ文学:21世紀からの再検証』(2001 世界思想社)
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