2011年

アメリカ文学史<後期> 

■ 授業の概要

20世紀アメリカをグローバルな視点から位置づけ、21世紀アメリカの存在の意味と世界のあり方を検討したい。民主主義、資本主義、人種、核などをキーワードとしてアメリカ文化を読み解き、戦争の世紀とも言える20世紀を歴史として語る方法を我々は手にしているのかという問題を考えていく。また、文学史という概念そのものにたいする批評理論も紹介する。歴史と記憶の問題については、最近の精神医学からの問題提起を汲み取り、歴史言説の特質についての考察を提示するつもりである。

■ 授業の計画

1  序論ーー歴史を語ること
2  19世紀後半の文学と文化
3  自然主義文学と社会
4  1899年の言葉使いー世紀の変わり目の社会と文学
5  20世紀のアメリカと資本主義
6  1920年という饗宴
7  宴の後ー1930年代の社会と文化
8  第二次世界大戦と歴史の概念
9  1950年代の文学
10 ユダヤ系文学とユダヤ的想像力/創造力
11 人種問題の歴史的パースペクティヴ
12 黒人文化と文学(1)
13 黒人文化と文学(2)
14 21世紀世界と「核」の表象ーー歴史のトラウマ
15 まとめ
(スクリーニングを1,2回予定しています。) 

■ 授業方法

 講義が中心であるが、ビデオなどによって視聴覚的にアメリカ文化に触れていきたい。また、インターネットによる情報収集(ことに英語で)にも慣れてもらいたい。
 指定された批評書2冊のうち、1冊を購入して読み、レポートを提出のこと。初回の授業で2冊の本の概要については説明するので、興味のあるものを選ぶこと。 

■ テキスト/参考文献

Peter B. High, An Outline of American Literature (Longman Eicho-sha)
『歴史とトラウマ:記憶と忘却のメカニズム』下河辺美知子(作品社)
『トラウマへの探求:証言の不可能性と可能性』キャシー・カルース(作品社)

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演習h<通年> 

■ 授業の概要 

◆人種と社会のディスコース◆

アメリカ黒人女性のラブ・ストーリー
 アメリカ文化はあらゆる種類の差異により構成されているが、中でも際立つのは人種(race)性差(gender)階級(class)の差異である。このゼミでは人種に焦点をあてながら黒人について書かれた作品を読んでいく。アメリカ文化の大きな部分をしめる人種問題には心理的な問題がいくつも潜んでいるが、奴隷制によって社会が運営されていた19世紀から、奴隷解放をへて21世紀に至る150年の間、人種に対する意識がアメリカ社会を裏から動かしていることを検証していく。

 ゾラ・ニール・ハーストンは1920年代のハーレム・ルネッサンスと呼ばれる黒人文化隆盛期の女性作家である。長い間埋もれていたこの作家が注目されるようになったのは、アリス・ウォーカーが『カラー・パープル』を書くにあたって、ハーストンの小説『彼らの目は神を見ていた』を手本としたと述べたことからであった。ハーストンのこの作品では、白人は一人もでてこない。黒人だけの共同体の中で展開される物語では、白人対黒人の差異ではなく、黒人人種内部の黒人の微妙な違いからくる差別が描かれる。黒人の中に染み付いた白人への憧れや願望が、黒人社会内で「幻の白いものさし」として機能し、自分たちの間に劣等感や優越感を生み、そこに愛情や憎しみに翻弄された黒人たちのドラマが繰り広げられるのである。

 『彼らの目は神を見ていた』(1937)のヒロイン、ジェイニーは白人との混血である。白い肌の黒人として、彼女は3回結婚し、3人の夫との関係を通して「自分だけの愛の基準」を獲得しようとする。しかし、運命は彼女から最愛の夫を奪っていく。それも彼女が撃った銃弾によって。ラブ・ストーリーとしてこの作品を読んだ上で、陪審員制度を含む南部白人社会の構造を通して社会学的な読み方も試みる。また、南部の民間伝承を収集し、黒人英語を大切にして本作品を書いたハーストンの文化人類学者的な側面にも注目したい。 

■ 授業の方法 

グループにわかれ、担当した部分について発表し、担当でないグループは、発表に対してレスポンスをします。声を出すことは勇気がいることですが、ゼミでの発言は“正しい答え”を期待されているわけではありません。自分で考えたことはどれも価値があるのです。思いを言葉にしてみるとそこに、思わぬレスポンスが帰ってくることがあります。

■ テキスト/参考文献
Zora Neal Hurston, Their Eyes Watching God (Harper Perennial Modern Classics, 2006)
批評書については授業内で指示する。

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演習i<通年> 

■ 授業の概要

◆記憶と回想のディスコース◆

9.11をめぐる「小さな物語」と「大きな物語」
 アメリカ文化はあらゆることを言葉に変換して歴史をきざんできた。しかし、出来事が起こっている時点で語るのと、すべてが終わってから語るのとでは、一つの出来事、一人の人物についての意味づけは大きく変わってくる。このゼミでは、アメリカ文化がある出来事を歴史化していく過程に注目して、アメリカ文学を読んでいく。2011年度は10年前の同時多発テロ(9.11)を扱った小説をとりあげる。

ドン・デリーロの『堕ちていく男』(2007)は、9・11が起きたときワールド・トレード・センターで働いていたエリート・ビジネスマンの男がマンハッタンを逃げ惑う情景から始まっている。親友の死を目撃し、自身も体中にガラスの破片をあびた男キース。彼のその後の物語の中では、別れた妻とその母親や、記憶を語り合える愛人との関係が語られていく。そして、あの日の記憶が個人の「小さな物語」として語られる一方、この本の中にはもう一つ、国家のための「大きな物語」が見えてくる。それは、「テロとの戦い」というスローガンによって、犠牲者側の痛みと不安とをナショナリズム的戦闘態勢へもっていくためのアメリカ国家の物語である。

 この本のタイトル“Falling Man”は、ビルや橋から真っ逆さまに落ちるパフォーマンスをする芸術家のことである。彼は、その危険な身振りを繰り返すことで、9月11日の朝、ワールド・トレード・センターから堕ちていく男が写る一枚の写真がとらえた瞬間を再現しているのである。不快で残酷な光景を反復することは、アメリカ国家が強制的に忘却させようとすることへの抵抗の身振りである。また、その一方で、彼はトラウマ的反復強迫を自ら演じてみせてもいるのである。テロリストの多くが、なんらかの形で心の傷としてのトラウマを抱えている可能性が言われている今、テロリスト側の記録も含むこのテキストを、21世紀社会への提言として読み解きたい。 

■ 授業の方法

 グループにわかれ、担当した部分について発表し、担当でないグループは、発表に対してレスポンスをします。声を出すことは勇気がいることですが、ゼミでの発言は“正しい答え”を期待されているわけではありません。自分で考えたことはどれも価値があるのです。思いを言葉にしてみるとそこに、思わぬレスポンスが帰ってくることがあります。

■ テキスト/参考文献

Don Dellilo, Falling Man (Scribner, 2007)
批評書については、授業で指示する。
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文学理論 <前期>

■ 授業の概要

 文学をとりまく様々な問題を取り上げて、文学研究と現実社会との結びつきを体験してもらう。私たちは文学を論じるとき、作中人物の行動や話の筋だけに目を向けがちである。しかし、それを書いている作家の動機、作家にそれを書かせた社会の要請、それを読む読者側の反応といった面に目をうつしていくと、文学をするという行為が立体的に見えてくる。
 文学作品というテクストを、歴史や社会という文脈(コンテクスト)に置いて考えることで、現代社会に生きるためのリテラシーを養っていきたい。卒業論文を書くための基礎力をつけることを目指しているが、それは決してハウツーものとして伝達されるわけではない。授業に参加することで、社会と言語との密接な関係を実感してほしい。記号としての言語、歴史の語り方、精神分析的な洞察、経済活動と文学、性差(男と女)など、現代批評のテーマを取り上げて解説する。 

■授業の計画
1      イントロダクション 
2~4   記号論入門 「ネコは猫なのか?」
5~7   ナラトロジー 「語る権利は誰のもの?」
8~10  リーダー・リスポンス批評 「意味はあなたの心に生まれてきます」
11~13 精神分析批評 「お父さんが怖いわけ・お母さんが懐かしいわけ」
14~15 まとめ

■ 授業方法
 
1 基本的に講義形式で行う。但し、与えられたテクストについて各々が考えを述べて議論に参加することが期待されている。
2 ビデオを使って視聴覚的に批評理論の基礎を体得してもらう。 

■ テキスト

毎回プリントを配布。

■ 参考文献

多数。初回授業時にリストを配布する。 
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アメリカ文学・文化D<>

■ 授業の概要

 2007年4月11日カート・ヴォネガットは84年の生涯を閉じた。人類の幸福について真摯に問いかける言葉を発し続けてきたヴォネガットは、核兵器、タイムマシン、生命科学といった科学テクノロジーが、現代社会の人間性とどのように関係してくるのかを問い続けた。SF小説的な手法で書かれた幾多の小説は、シニカルでユーモラスな作風で、ことに若者から絶大な支持を受けてきた。

21世紀の今、彼が取り上げた問題はますます社会の中に浮き上がり我々の意識を支配している。第二次世界大戦中、捕虜として体験したドレスデン大空襲の体験を描いた『スローターハウス5』(1969)では、国家という名のもとに戦争という場ではどれほど残虐なことが行われるのかが、フラッシュバックの技法を用いて提示されている。『猫のゆりかご』(1963)では、原爆を発明したアメリカ人科学者が原爆投下の朝、アメリカの自宅で息子とあやとりをしていたエピソードから始め、原爆よりさらに深刻なアイス・ナインという化学兵器が出現した世界の週末を描いていく。

核兵器、宗教、冷戦、自殺といったテーマを、あらためてヴォネガット作品およびエッセイの中で読み解いていきたい。また、PTSDが記憶に関する症状であるとすれば、文学テクストはトラウマ記憶を言葉にしていく過程のサンプルとなる。ヴォネガットのテクストを、21世紀の政治的コンテクストの中で読みながら、精神分析的洞察からも検証していきたい。

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■ 授業の計画 

1   イントロダクション
2   “Epicac” 精読
3-6  Slaughterhouse-Five精読
7    A Man Without a Country
8   スクリーニング
9-12 Cat’s Cradle精読

13  A Man Without a Country
14  ディスカッション
15  まとめ 

■ テキスト
Kurt Vonnegut, Cat’s Cradle (Penguin Books)
—-Slaughterhouse-Five (Penguin Books) 

■ 参考文献

Kurt Vonnegut, Welcome to the Monkey House (Penguin Books)

—-A Man Without a Country