授業内容

[2010年度授業内容]

アメリカ文学史 Ⅱ <後期> 

■授業の概要

 20世紀アメリカをグローバルな視点から位置づけ、21世紀アメリカの存在の意味と世界のあり方を検討したい。
民主主義、資本主義、人種、核などをキーワードとしてアメリカ文化を読み解き、戦争の世紀とも言える20世紀を歴史として語る方法を我々は手にしているのかという問題を考えていく。また、文学史という概念そのものにたいする批評理論も紹介する。歴史と記憶の問題については、最近の精神医学からの問題提起を汲み取り、歴史言説の特質についての考察を提示するつもりである。

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■授業の計画

1序論ーー歴史を語ること
2 19世紀後半の文学と文化
3 自然主義文学と社会
4 1899年の言葉使いー世紀の変わり目の社会と文学
5 20世紀のアメリカと資本主義
6 1920年という饗宴
7 宴の後ー1930年代の社会と文化
8 第二次世界大戦と歴史の概念
9 1950年代の文学
10 ユダヤ系文学とユダヤ的想像力/創造力
11 人種問題の歴史的パースペクティヴ
12 黒人文化と文学(1)
13 黒人文化と文学(2)
14 21世紀世界と「核」の表象ーー歴史のトラウマ
15 まとめ
(スクリーニングを1,2回予定しています。)   
 

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■授業方法

 講義が中心であるが、ビデオなどによって視聴覚的にアメリカ文化に触れていきたい。また、インターネットによる情報収集(ことに英語で)にも慣れてもらいたい。
 指定された批評書2冊のうち、1冊を購入して読み、レポートを提出のこと。初回の授業で2冊の本の概要については説明するので、興味のあるものを選ぶこと。
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■テキスト/参考文献

Peter B. High, An Outline of American Literature (Longman Eicho-sha)
『歴史とトラウマ:記憶と忘却のメカニズム』下河辺美知子(作品社)
『トラウマへの探求:証言の不可能性と可能性』キャシー・カルース(作品社)

 
 
演習 Ⅰ・Ⅱh <通年>

■授業の概要演習

◆奴隷制と混血のディスコース◆
 アメリカ文化はあらゆる種類の差異により構成されているが、中でも際立つのは人種(race)性差(gender)階級(class)の差異である。このゼミでは人種に焦点をあてながら黒人について書かれた作品を読んでいく。本年は、アメリカ国家の歴史にとって最大の問題である奴隷制と混血の問題を考えていく。奴隷制がしかれていた時期に混血と言うときは、白人の奴隷主と黒人女性奴隷の間に生まれた子供の場合が多いが、そこには、社会的、心理的な問題がいくつも潜んでいる。アメリカ文化の大きな部分をしめる人種問題の本質を、十九世紀社会の中で見るだけでなく、現代アメリカ社会の一断面を構成する要素としても考えてみたい。
 『大統領の娘』(1994)は黒人女性作家バーバラ・チェイス=リボウが書いた小説で、黒人と白人の混血女性奴隷の一生を描いたものである。母を残して農園から出奔する冒頭のシーンに続いて、レイプされそうになって森を逃げ回る回想が述べられた後、フィラデルフィアへ出たハリエットは白人女性として上流階級夫人の人生を築いていく。しかし、白人のような肌をしていても、「一滴の黒人の血」により黒人/奴隷という運命は変わらない。ハリエットの人生は常にサスペンスに満ちたものとなる。
ヒロインの父が白人奴隷主であるばかりでなく、「独立宣言」の起草者であり第三代アメリカ大統領トマス・ジェファソンであるという設定が、この物語に人種にまつわる政治性を導入するのである。アメリカという国家のアイデンティティがハリエットの一生とどう関係するのか。“黒人”と“奴隷”というカテゴリーがアメリカ国家の中でどのように構築されていったかを見ることは、アメリカ文化の本質に大きくかかわる問題である。白人という人種の単一性を前提として構築されたナショナリティという概念について考察してみたい。

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■授業の方法 

グループにわかれ、担当した部分について発表し、担当でないグループは、発表に対してレスポンスをします。声を出すことは勇気がいることですが、ゼミでの発言は“正しい答え”を期待されているわけではありません。自分で考えたことはどれも価値があるのです。思いを言葉にしてみるとそこに、思わぬレスポンスが帰ってくることがあります。

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■テキスト/参考文献
Barbara Chase=Riboud, President’s Daughter(Chicago Review Press 1994 2009 )
批評書については授業内で指示する。

 
 
演習 Ⅰ・Ⅱi <通年>

■授業の概要

◆記憶と回想のディスコース◆
 アメリカ文化はあらゆることを言葉に変換して歴史をきざんできた。しかし、出来事が起こっている時点で語るのと、すべてが終わってから語るのとでは、一つの出来事、一人の人物についての意味づけは大きく変わってくる。このゼミでは、アメリカ文学に描かれた人物を取り上げて、すでに亡くなっている時点でその人物が語られている点に注目し、回想の語りの社会的意味を考えていく。ナレーター的人物が「逝ってしまった人を語る」とき、そこにはどのような情緒がこめられているのか。なぜナレーターはそのような語り方を選ぶのか。そこに社会的必然や時代の要請を読み取ることで文化研究的アプローチを試みる。
 ポール・オースターの『レヴァイアサン』(1992)は、一人のテロリストが死んだ後、友人であった作家が彼について語るという形式の作品である。サックスというそのテロリストは、自ら「ファントム・オブ・リバティ」と名乗り、全米あちこちの自由の女神像を爆破していた。その彼は、ウィスコンシン州北部の国道で、自分が作った爆弾が誤爆発した結果、車ごと吹き飛ばされて死亡する。ここに至るまでにサックスがどのような人々とどのような関係を持ってきたのか。どのようにして爆弾作りの方法を知るようになったのか。そして、彼がテロ行為に走ったわけは、公への義憤だったのか、それとも個人的な怒りだったのか。
 FBIの捜査が及ぶ前に、消えてしまったサックスの人生についての真実を書き記そうとしていたアーロンは、サックスが犯人であると知れると書き上げた本をFBIに渡すのである。すべてが終わった時点で回想する語りは、1990年代アメリカ社会とどのように呼応しているのかを考える一方、社会問題としてのテロについて、その政治的本質の裏にある社会心理をテクストから追っていく。また、テロリストの多くが、なんらかの形で心の傷としてのトラウマを抱えている可能性が言われている今、一人のテロリストの記録の中に、どのような人間関係がつまっているかを見ていきたい。

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■授業の方法 ■

 グループにわかれ、担当した部分について発表し、担当でないグループは、発表に対してレスポンスをします。声を出すことは勇気がいることですが、ゼミでの発言は“正しい答え”を期待されているわけではありません。自分で考えたことはどれも価値があるのです。思いを言葉にしてみるとそこに、思わぬレスポンスが帰ってくることがあります
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■テキスト/参考文献

Paul Auster, Leviathan (Faber & Faber Limited, 1992)
批評書については、授業で指示する。
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文学理論 〈前期〉 

■授業の概要

 文学をとりまく様々な問題を取り上げて、文学研究と現実社会との結びつきを体験してもらう。私たちは文学を論じるとき、作中人物の行動や話の筋だけに目を向けがちである。しかし、それを書いている作家の動機、作家にそれを書かせた社会の要請、それを読む読者側の反応といった面に目をうつしていくと、文学をするという行為が立体的に見えてくる。
 文学作品というテクストを、歴史や社会という文脈(コンテクスト)に置いて考えることで、現代社会に生きるためのリテラシーを養っていきたい。卒業論文を書くための基礎力をつけることを目指しているが、それは決してハウツーものとして伝達されるわけではない。授業に参加することで、社会と言語との密接な関係を実感してほしい。記号としての言語、歴史の語り方、精神分析的な洞察、経済活動と文学、性差(男と女)など、現代批評のテーマを取り上げて解説する。
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■授業の計画
1   イントロダクション 
2~4 記号論入門 「ネコは猫なのか?」
5~7 ナラトロジー 「語る権利は誰のもの?」
8~10 リーダー・リスポンス批評 「意味はあなたの心に生まれてきます」
11~13 精神分析批評 「お父さんが怖いわけ・お母さんが懐かしいわけ」
14~15 まとめ
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■授業方法
 
1 基本的に講義形式で行う。但し、与えられたテクストについて各々が考えを述べて議論に参
  加することが期待されている。
2 ビデオを使って視聴覚的に批評理論の基礎を体得してもらう。
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■テキスト

毎回プリントを配布。

■参考文献

多数。初回授業時にリストを配布する。
 
 
アメリカ文学・文化DⅠ <前期>

■授業の概要

 2010年1月27日、作家として長いこと沈黙をつづけてきたJ.D.サリンジャーがニューハンプシャー州で91歳で亡くなった。『ライ麦畑の捕まえ手』を出してから60年近く。いまだに世界中の人々が彼の作品を読みつづけている。二十世紀社会に引き起こされた様々な問題ーー戦争と帰還兵士、核、冷戦、自殺を含む人の死、そしてPTSDと名づけられたトラウマ記憶ーーが、サリンジャーのテクストの中に潜んでいることを、我々読者は無意識に感じ取るからであろう。二十一世紀の今、そうした問題はますます社会の中に浮き上がり我々の意識を支配しつつある。
 第二次世界大戦中ノルマンディー上陸作戦の激戦に参加したサリンジャーは、帰還後、心の失調のため入院する。短編”For Esme”では戦争体験のための精神的不調のケースが語られており、”A Perfect Day for Bananafish”では、帰還兵シーモア・グラスの自殺の謎が語られる。
 Raise High the Roof Beam,Carpenterは、亡くなったシーモアについて、弟バディが後から語る回想のテクストであり、Catcher in the Ryeは、悩める若者のバイブルという読みの他に、様々な読みが可能である。サリンジャーのテクストの中に、冷戦、核、自殺といったテーマを読み解いていきたい。また、PTSDが記憶に関する症状であるとすれが、文学テクストはトラウマ記憶を言葉にしていく課程のサンプルとなる。サリンジャーのテクストを、二十世紀の政治的コンテクストの中で読みながら、精神分析的洞察からも検証していきたい。

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 ■授業の計画 

1.イントロダクション
2.”For Esme” 精読
3.同 ディスカッション
4.”A Perfect Day for Bananafish” 精読
5. 同 デイスカッション
6.”Raise High the Roof Beam, Carpenters”(1)精読
7. 同(2)精読
8.同(3)精読
9. 同 ディスカッション
10. Catcher in the Rye精読
11. 同(2)精読
12. 同(3)精読
13. 同(4)精読
14. ディスカッション
15.まとめ

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■テキスト
J.D.Salinger,Nine Stories(Penguin Books)
—- Raise High the Roof Beam, Carpenters & Seymour an Introduction(Panguin Books)
—- Catcher in the Rye(Panguin Books)

■参考文献

多数。初回授業時にリストを配布する。

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