1997年

演習 Ⅰ・ⅡM <通年>

■授業の概要
[黒人混血女性のラヴ・ストーリー]

 ゾラ・ニール・ハーストンは1920年代のハーレム・ルネッサンスと呼ばれる黒人文化隆盛期の女性作家である。長い間埋もれていたこの作家が注目されるようになったのは、アリス・ウォーカーが『カラー・パープル』を書くにあたって、ハーストンの小説『彼らの目は神を見ていた』を手本としたと述べられたことからであった。
 ハーストンの作品では、白人対黒人の差異ではなく、黒人人種内部の黒人の微妙な違いからくる差別が描かれる。黒人の中に染みついた白人への憧れや願望が、黒人社会内で「幻の白いものさし」として機能し、自分たちの間に劣等感や優越感を生み、そこに愛情や憎しみに翻弄された黒人たちのドラマが繰り広げられるのである。『彼らの目は神を見ていた』のヒロインは白人との混血である。白い肌の黒人として、彼女は三人の夫との関係を通して「自分だけの愛のものさし」を獲得しようとする。しかし、運命は彼女から最愛の夫を奪っていく。
 ラブ・ストーリーとしてこの作品を読んだ上で、陪審員制度を含む南部白人社会の構造を通して、社会学的な読み方も試みる。さらに、南部の民間伝承を収集し、黒人英語を大切にしてテクストを書いたハーストンの文化人類学者的な側面にも注目したい。
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■テキスト/参考文献
Zora Neale Hurston, Their Eyes Were Watching God (1937)
—-, Dust Tracks on a Road: An Autobiography (1942)
—-, Tell My Horse: Voodoo and Life in Haiti and Jamaica (1938)
バーバラ・ジョンソン『差異の世界』(紀伊国屋書店)
エリザベス・A・メイヤー『差異のダブル・クロス』(彩流社)
今福龍太『クレオール主義』(青土社)

 
 
演習 Ⅰ・ⅡN <通年>

■授業の概要

[[アメリカ文学におけるヒロシマの記憶]

 戦争という出来事が、文化や国家のもとで公共の記憶になるまでのプロセスを、文化のダイナミズム、個人の精神分析側面の両面から見ていく。
 ヒロシマは、人類が最も最近体験した世界的戦争である第二次世界大戦の中において特異な出来事として歴史に組み込まれようとしている。被害者の立場からのヒロシマの表象は多いが、原爆を落とした側として、アメリカ文化が、ヒロシマという事実を自国の歴史の中で、いかにして記憶としてとどめようとしているのか/とどめそこなっているのかを、文学テクストを中心に検証する。
 ジョン・ハーシーの『ヒロシマ』は戦争直後に書かれたドキュメントタッチの小説である。六人の被爆者の物語が、新聞記事のような体裁で、意見や感情を交えずに語られていく。一方、カート・ヴォネガットの『猫のゆりかご』は、アメリカに住む原爆製造者の原爆投下の日の行動を調べて物語に書こうとする男の話であり、SF 的手法で書かれた問題作である。
 トラウマ的現実を言語に映し、物語的記憶に書き換える過程を精神分析の理論から検証し、そうした作業の中で文化の表象がどのように扱われているかを考えていく。あわせて、スミソニアネットにより各種データ・ベースへのアクセスも試みたい。

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■テキスト/参考文献
John Hersey, Hiroshima (1946)
Kurt vonnegut, Cat’s Cradle (1963)
S. フェルマン『声の回帰:映画「ショアー」と〈証言〉の時代』(太田出版)
イアン・ブルマ『戦争の記憶』(TBS ブリタニカ)
マルグリット・デュラス『ヒロシマ私の恋人』(ちくま文庫)

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文学理論  <通年> 

■授業の概要

 文学をとりまく様々な問題を取り上げて、英米文学への取り組み方を紹介する。我々は文学を論じるのに、作中人物の行動や話の筋にだけ目をうばわれがちである。しかし、それを書いている作家の動機、作家にそれを書かせた社会の要請、それを読む読者の側の反応といった側面に目を移していくと、「文学をするという行為」が立体的に見えてくる。文学作品というテクストを歴史や社会というコンテクストに置いて考えてみたい。記号としての言語、歴史的事実と文学、精神分析と言語、経済活動と文学、性差(男と女)等、現代批評が問題とする項目をとりあげて解説していく。
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■授業の計画

前期: Ⅰ ロシア・フォルマリズム
    Ⅱ 読者反応理論
    Ⅲ ナラトロジー  後期: Ⅰ 精神分析批評
    Ⅱ 記号論
    Ⅲ 新歴史主義 

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