2004年

アメリカ文学史  <通年> 

■授業の概要

 文学は、言葉によって社会の様相をテクストの中に再現する行為であり装置である。アメリカ合衆国の文化と社会の流れを、様々なテクストから読み解いていく。
 15世紀ヨーロッパにとって、新大陸としてのアメリカ大陸が持つ意味を探ることから始め、17、18世紀の植民地時代の精神的背景、1776年の独立革命の与えた衝撃、19世紀アメリカ国家の空間的拡張が与えた精神的高揚等などを文学作品・政治文書・ジャーナルなどからたどる。その上で、20世紀アメリカをグローバルな視点から位置づけ、21世紀のアメリカの存在の意味と世界のあり方を検討したい。
 また、文学史という概念そのものに対する批評理論も紹介する。ことに、歴史と記憶との問題については、最近の精神医学の問題提起などを批評書から汲み取り、ことに歴史言説の特質についての考察を提示するつもりである。
——————————————————————————–
■授業の計画

前期: 15世紀ヨーロッパにおける新大陸の意味
     植民地時代のテクスト
     独立革命とアメリカの理念
     アメリカ文学の独立
     アメリカ・ルネサンスの文学と精神
     南北戦争と文学
    「ヤング・アメリカ」と拡張主義
 後期: 19世紀後半の文学と文化
     自然主義文学と社会
     世紀の変わり目の社会と文学      
     1920年代の文学と文化
     第二次世界大戦の歴史の概念
     ユダヤ系文学とユダヤ的想像力/創造力
     黒人文化と文学
     アメリカ的リアリズムの本質と21世紀社会

——————————————————————————–
■授業方法

講義が中心であるが、ビデオなどによって視聴覚的にアメリカ文化に触れていきたい。また、インターネットによる情報収集(ことに英語で)にも慣れてもらいたい。指定された批評書2冊のうち、1冊を購入して読み、レポートを提出のこと。初回の授業で2冊の本の概要については説明するので、興味のあるものを選ぶこと。
——————————————————————————–

■テキスト/参考文献

Peter B. High, An Outline of American Literature (Longman Eicho-sha)
『歴史とトラウマ:記憶と忘却のメカニズム』下河辺美知子(作品社)
『トラウマへの探求:証言の不可能性と可能性』キャシー・カルース(作品社)

 
 
演習 Ⅰ・ⅡI <通年>

■授業の概要

[黒人女性が自己を語ること]
 黒人女性文学を論じるとき、人種と性差(race and gender)の二重の抑圧の下で書くこと/生きることの意味を論じることが多い。しかし、それに加えて、黒人女性作家や小説の中の黒人女性をとりまく社会的・歴史的状況がテクストの中にいかに入り込んでいるかを読むことも重要であろう。
 黒人女性初のノーベル文学賞作家トニ・モリソンの作品の中で、『スーラ』は20世紀前半のアメリカ社会を色濃く反映している。スーラとネルという二人の女性の友情を中心として描いているが、その各々が共同体にどのように受け入れられ・排除されていたか。この様子を読むことによって、善と悪という価値がダイナミックに変動する様子に、黒人のアイデンティティの在り処であるアフリカ的空間との対比が見える。
 女性の登場人物をとりまく黒人男性の中にも時代の影は見える。ことに、第一次世界大戦という出来事が、戦争体験をトラウマ(心的外傷)としてかかえる帰還兵ジャドラックに与えた衝撃を、個人にたいするものとしてだけでなく、アメリカ社会にたいする衝撃としてとらえて考えてみたい。
——————————————————————————–

■テキスト

Toni Morrison, Sula (Bt Bound)
Toni Morrison, Playing in the Dark:Whiteness and the Literary Imagination (Random House)

 
 
演習 Ⅰ・ⅡJ <通年>

■授業の概要

[「核」の表象と歴史のレトリック]
 核分裂とは、物理学の発見として科学の輝かしい進歩の証であった。その「核」を大量殺戮の兵器として利用した20世紀を、歴史はどのように紡いできたのか?
 ジョン・ハーシーの『ヒロシマ』は、原爆投下直後にヒロシマを訪れた著者が原爆を体験した人の証言から構成したドキュメンタリーである。発売されるやいなや、このレポートが載った『ニューヨーカー』はまたたくまに売り切れたという。また、『猫のゆりかご』はカート・ヴォネガットのSF小説である。原爆を開発したマンハッタン計画の責任者、オッペンハイマー博士の原爆投下とその日の行動を調べて小説として書こうとする男の話である。
 「核」という、人類がコントロール出来ない「破壊力」をめぐり、世界はどのような言説を持つのか?あるいはむしろ言葉で表象することを避けてしまうのか?21世紀世界における国際問題や国家のアイデンティティと言った点からも考えてみたい。
——————————————————————————–

■テキスト

John Hersey, Hiroshima (Random House)
Kurt Vonnegut, Cat’s Cradle (Bantam Dell Pub. Group)

——————————————————————————–

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です