2006年

アメリカ文学史  <Ⅰ(前期)・Ⅱ(後期)> 

■授業の概要

 文学は、言葉によって社会の様相をテクストの中に再現する行為であり装置である。アメリカ合衆国の文化と社会の流れを、様々なテクストから読み解いていく。
 15世紀ヨーロッパにとって、新大陸としてのアメリカ大陸が持つ意味を探ることから始め、17、18世紀の植民地時代の精神的背景、1776年の独立革命の与えた衝撃、19世紀アメリカ国家の空間的拡張が与えた精神的高揚等などを文学作品・政治文書・ジャーナルなどからたどる。その上で、20世紀アメリカをグローバルな視点から位置づけ、21世紀のアメリカの存在の意味と世界のあり方を検討したい。
 また、文学史という概念そのものに対する批評理論も紹介する。ことに、歴史と記憶との問題については、最近の精神医学の問題提起などを批評書から汲み取り、ことに歴史言説の特質についての考察を提示するつもりである。
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■授業の計画

前期: 15世紀ヨーロッパにおける新大陸の意味
     植民地時代のテクスト
     独立革命とアメリカ精神
     アメリカ文学の独立
     アメリカ・ルネサンス文学と精神
     南北戦争と文学
    「ヤング・アメリカ」と拡張主義
 後期: 19世紀後半の文学と文化
     自然主義文学
     世紀の変わり目の社会と文学      
     1920年代の文学と文化
     第二次世界大戦の歴史の概念
     ユダヤ系文学とユダヤ的想像力/創造力
     黒人文化と文学
     アメリカ的リアリズムの本質と21世紀社会

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■授業方法

講義が中心であるが、ビデオなどによって視聴覚的にアメリカ文化に触れていきたい。また、インターネットによる情報収集(ことに英語で)にも慣れてもらいたい。指定された批評書2冊のうち、一冊を購入して読み、レポートを提出のこと。初回の授業で2冊の本の概要については説明するので、興味のあるものを選ぶこと。 
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■テキスト/参考文献

Peter B. High, An Outline of American Literature (Longman Eicho-sha)
『歴史とトラウマ:記憶と忘却のメカニズム』下河辺美知子(作品社)
『トラウマへの探求:証言の不可能性と可能性』キャシー・カルース(作品社)
参考書
『記憶を書き換える』イアン・ハッキング(早川書房)
『記憶のポリティックス松井 昇 他(南雲堂フェニックス) 

 
 
演習 Ⅰ・Ⅱh <通年>

■授業の概要

[人種をめぐる法廷のレトリック]
 アメリカ文学・文化の中から裁判のシーンをとりあげる。ことに陪審員制度において、証言の言葉や判決の判断に人種意識がどのように関係しているのかを分析する。
 『アメリカの息子』では、黒人青年が白人女性を殺害するに至る過程とその後の逃亡・逮捕が描かれている。しかし、一番多くの頁がさかれているのは白人陪審員による裁判の様子である。言葉を奪われた状態で死刑場におもむくビガー・トーマスの運命を読み解いていきたい。
アメリカ文化はあらゆる種類の差異により構成されているが、中でも際立つのは人種(race)性差(gender)階級(class)の差異である。「法廷」とはこれらの差異がもちこまれ「正義」が作り出されていく場である。証言の言語に宿る意図と発言の乖離、それを裁く「法」の言説の持つ暴力性を読み解いていく。また、トラウマについての最新の研究を紹介し、記憶や歴史の問題を再考することにより、裁判とトラウマ的状況との関連にもふれてみたい。

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■テキスト/参考文献
Richard Wright, Native Son
◆映画
『怒れる十二人の男』(Twelve Angry Men )
『評決のとき』(A Time To Kill )
『アラバマ物語』( To Kill a Mockingbird )
 
 
演習 Ⅰ・Ⅱi <通年>
■授業の概要

[PTSDは文学テクスト内にいかにあらわれているのか]
 PTSD(心的外傷後ストレス障害)は記憶に関する症状としてあらわれる。物語という形式が根源的に“語り”であるとすれば、文学テクストはトラウマ記憶の語り方のサンプルとなる。第二次世界大戦が人類にとってどのような体験であったかを語る手法として、大戦を実体験した二人の作家の作品をとりあげる。
J.D.Salingerはノルマンディー上陸作戦の激戦に参加した後、心の失調のため入院している。短編「エズメに」ではその体験が語られ、「バナナフィッシュにうってつけの日」では、帰還兵シーモア・グラスの自殺の謎が語られる。一方、Kurt Vonnegutは、第二次世界大戦中、捕虜として体験したドレスデン爆撃について『スローターハウス5』というSF的作品を書き、言葉にすることが不可能な体験を、過去・現在・未来を行き来する形式で書いている。
2人の作家がトラウマ的体験をどのような方法で言葉に置き換えていくかを精神分析的洞察から検証していきたい。

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■テキスト/参考文献
J.D.Salinger, Nine Stories
Kurt Vonnegut, Slaughterhouse Five
◆映画
『スローターハウス5』
『めまい』
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