2009年

アメリカ文学史 Ⅱ <後期> 

■授業の概要

 20世紀アメリカをグローバルな視点から位置づけ、21世紀アメリカの存在の意味と世界のあり方を検討したい。
民主主義、資本主義、人種、核などをキーワードとしてアメリカ文化を読み解き、戦争の世紀とも言える20世紀を歴史として語る方法を我々は手にしているのかという問題を考えていく。また、文学史という概念そのものにたいする批評理論も紹介する。歴史と記憶の問題については、最近の精神医学からの問題提起を汲み取り、歴史言説の特質についての考察を提示するつもりである。

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■授業の計画

1序論ーー歴史を語ること
2 19世紀後半の文学と文化
3 自然主義文学と社会
4 1899年の言葉使いー世紀の変わり目の社会と文学
5 20世紀のアメリカと資本主義
6 1920年という饗宴
7 宴の後ー1930年代の社会と文化
8 第二次世界大戦と歴史の概念
9 1950年代の文学
10 ユダヤ系文学とユダヤ的想像力/創造力
11 人種問題の歴史的パースペクティヴ
12 黒人文化と文学(1)
13 黒人文化と文学(2)
14 21世紀世界と「核」の表象ーー歴史のトラウマ
15 まとめ
(スクリーニングを1,2回予定しています。)   
 

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■授業方法

 講義が中心であるが、ビデオなどによって視聴覚的にアメリカ文化に触れていきたい。また、インターネットによる情報収集(ことに英語で)にも慣れてもらいたい。
 指定された批評書2冊のうち、1冊を購入して読み、レポートを提出のこと。初回の授業で2冊の本の概要については説明するので、興味のあるものを選ぶこと。
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■テキスト/参考文献

Peter B. High, An Outline of American Literature (Longman Eicho-sha)
『歴史とトラウマ:記憶と忘却のメカニズム』下河辺美知子(作品社)
『トラウマへの探求:証言の不可能性と可能性』キャシー・カルース(作品社)

 
 
演習 Ⅰ・Ⅱh <通年>

■授業の概要演習

[奴隷制を語るディスコース]
 アメリカ文化はあらゆる種類の差異により構成されているが、中でも際立つのは人種(race)性差(gender)階級(class)の差異である。このゼミでは人種に焦点をあてながら黒人について書かれた作品を読んでいく。本年は、アメリカ国家の歴史にとって最大の問題である奴隷制をとりあげる。白人の女性作家と元奴隷の黒人男性の各々が、奴隷制についてどのように語っているのか。また、その言葉を当時の人々はどのように受け取ったのか。アメリカ文化の大きな部分をしめる人種問題の本質を、十九世紀社会の中で見るだけでなく、現代アメリカ社会の一断面を構成する要素としても考えてみたい。
 『アンクルトムの小屋』は、十九世紀中に百万部売れた唯一の本であり、奴隷解放へつながる南北戦争前夜のアメリカの世論を形成したと言われている。なぜ、この本が当時それほど売れたのか?この時代の白人読者は『アンクルトムの小屋』を読むことで、文化の根底に流れるセンチメンタルな感性を共有して一つの世界観を作っていったからである。黒人奴隷の母と幼い息子の絆、奴隷のトムと引き離された妻との夫婦の絆、トムと主人の娘エヴァとの人種を超えた絆、トムが死んだ直後、約束通りトムを迎えに来た奴隷主の息子との人間的な絆などなど。「家族の愛の物語」としてのセンチメンタルな筋が展開する中、このテクストが社会の仕組みを揺るがす<力>を発揮するメカニズムを分析する。
 一方、黒人奴隷が自由を獲得する様子は『フレデリック・ダグラス自伝』に書かれている。人間として自己の人生を所有することさえ許されなかった奴隷制の中で、黒人男性が自己を語る言葉をいかにして獲得していったのか。「なぜ自分は奴隷なのか」という問いから自分の立場に目覚め、自由への逃亡を企てるプロセスは、黒人奴隷が言葉を獲得することの意味を浮き上がらせていく。Slave Narrativeというジャンルがアメリカ社会においていかなる機能を持つかについても調べていきたい。

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■授業の方法 

グループに分かれ、毎週決められた部分についてディスカッションをしたものを発表します。担当にあたっていないグループは、発表に対してレスポンスをします。声を出すことは勇気がいることですが、ゼミでの発言は“正しい答え”を期待されているわけではありません。自分で考えたことはどれも価値があるのです。思いを言葉にしてみるとそこに、思わぬレスポンスが帰ってくることがあります。詳しくは初回授業で説明します。
また、外部からスピーカーを招待して講演をしてもらったり、映画の鑑賞も授業の中で行います。

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■テキスト/参考文献
Harriet B. Stowe, Uncle Tom’s Cabin (Vintage Books)
Frederick Douglass, Narrative of the Life of Frederick Douglass (Penguin)

 
 
演習 Ⅰ・Ⅱi <通年>

■授業の概要

[記憶と回想のディスコース]
 アメリカ文化はあらゆることを言葉に変換してこれまで歴史をきざんできた。しかし、出来事が起こっている時点で語るのと、すべてが終わってから語るのとでは、一つの出来事、一人の人物についての意味づけは大きく変わってくる。このゼミでは、アメリカ文学に描かれた人物を取り上げて、すでに亡くなっている時点でその人物が語られている点に注目し、回想の語りの社会的意味を考えていく。ナレーター的人物が「逝ってしまった人を語る」とき、そこにはどのような情緒がこめられているのか。なぜナレーターはそのような語り方を選ぶのか。そこに社会的必然や時代の要請を読み取ることで文化研究的アプローチを試みる。
 『グレート・ギャッツビー』で描かれるギャッツビーは、”アメリカン・ドリーム“を体現した男である。彼の人生の花が無残に摘み取られたとき、読者はギャッツビーの成功と破滅を追うことで、彼の人生に様々な思いを投影する。彼についての情報は、邸宅の隣に偶然住むことになったニックの口から語られる。ニックの目からみたギャッツビーの孤独や富の虚しさ、ギャッツビーの謎めいた過去など、すべてが終わった時点で回想するニックの語りは、1920年代のアメリカ社会の繁栄とどのように呼応しているのかを考える。
 第二次世界大戦での激戦後、心の失調のために入院したサリンジャーは「バナナフィッシュにうってつけの日」で帰還兵シーモアの謎に満ちた自殺を描いている。我々はシーモアなぜ自らの頭に銃を当てて発砲するにいたったかを知りたいという欲望を掻き立てられて、サリンジャーの他の作品の中に生前のシーモアの姿を追い求めることになる。『大工よ屋根を高くあげよ』では、弟バディの口から結婚式に現れなかった新郎シーモアの様子が語られている。シーモアが消えた今、我々はバディとともに回想の中でシーモアについての記憶をたどるのである。
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■授業の方法 ■

 グループに分かれ、毎週決められた部分についてディスカッションをしたものを発表します。担当にあたっていないグループは、発表に対してレスポンスをします。声を出すことは勇気がいることですが、ゼミでの発言は“正しい答え”を期待されているわけではありません。自分で考えたことはどれも価値があるのです。思いを言葉にしてみるとそこに、思わぬレスポンスが帰ってくることがあります。詳しくは初回授業で説明します。また、外部からスピーカーを招待して講演をしてもらったり、映画の鑑賞も授業の中で行います。
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■テキスト/参考文献

F.Scott Fitzgerald, The Great Gatsby (Penguin)
J.D.Salinger, Nine Stories (Little, Brown and Company)
   ――― Raise High the Roof Beam, Carpenters (Penguin)
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文学理論 〈前期〉 

■授業の概要

 文学をとりまく様々な問題を取り上げて、文学研究と現実社会との結びつきを体験してもらう。私たちは文学を論じるとき、作中人物の行動や話の筋だけに目を向けがちである。しかし、それを書いている作家の動機、作家にそれを書かせた社会の要請、それを読む読者側の反応といった面に目をうつしていくと、文学をするという行為が立体的に見えてくる。
 文学作品というテクストを、歴史や社会という文脈(コンテクスト)に置いて考えることで、現代社会に生きるためのリテラシーを養っていきたい。卒業論文を書くための基礎力をつけることを目指しているが、それは決してハウツーものとして伝達されるわけではない。授業に参加することで、社会と言語との密接な関係を実感してほしい。記号としての言語、歴史の語り方、精神分析的な洞察、経済活動と文学、性差(男と女)など、現代批評のテーマを取り上げて解説する。
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■授業の計画
1   イントロダクション 
2~4 記号論入門 「ネコは猫なのか?」
5~7 ナラトロジー 「語る権利は誰のもの?」
8~10 リーダー・リスポンス批評 「意味はあなたの心に生まれてきます」
11~13 精神分析批評 「お父さんが怖いわけ・お母さんが懐かしいわけ」
14~15 まとめ
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■授業方法
 
1 基本的に講義形式で行う。但し、与えられたテクストについて各々が考えを述べて議論に参
  加することが期待されている。
2 ビデオを使って視聴覚的に批評理論の基礎を体得してもらう。
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■テキスト

毎回プリントを配布。

■参考文献

多数。初回授業時にリストを配布する。
 
 
アメリカ文学・文化DⅠ <前期>

■授業の概要

 2009年はエドガー・アラン・ポー生誕200周年である。19世紀前半のアメリカ作家の作品が、200年たっても世界で読まれているわけは、ポーのテクストの中のさまざまな仕掛けが、いつの時代においても、社会の現実をとらえたいと願う読者の読みを激しく掻き立てるからである。この授業では、21世紀の文化・社会の文脈の中でポーのテクストを読み直してみたい。
 ポーは作家、批評家、ジャーナリスト、といった様々な顔を持つ。旅芝居役者の両親のもとに生まれ、40歳の若さで路上で死んだ孤独の人ポーは、一方で、奴隷制下の南部貴族的気質も持ち合わせている。しかし何よりわれわれにとって意味深いのはポーが探偵小説というジャンルを最初に作り上げた作家であるという点であろう。人間心理に潜む恐怖、疑似科学による合理性の追求、死の様相についての幻想的視点など、ポー文学の特質をさぐりつつ、小説を読む楽しみも味わっていきたい。その上で、ポーについての研究論文や学術書をあたりつつ、人種差別的言説、疫病についてのディスコース、奴隷制についてのレトリックなどがポーのテクストに隠されていることを検証していきたい。

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 ■授業の計画 

1  イントロダクション 
2~3恐怖小説テクスト読解(「赤死病の仮面」「落とし穴と振り子」他)
4  批評
5~6推理小説テクスト読解(「モルグ街の殺人」「黄金虫」他)
7  批評
8~9殺人小説テクスト読解(「黒猫」「物言う心臓」他)
10  批評
11~12 幻想・疑似科学小説テクスト読解(「タール博士とフェザー博士」「群集の人」他)
13  批評
14~15 まとめ

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■テキスト
Edgar Allan Poe, Poetry,Tales, and Selected Essays (Library of America College Editions)

■参考文献

多数。初回授業時にリストを配布する。

 

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